イギリスの経済誌が「ビッグマック指数」というのを発表している。世界55ヵ国ほどの都市でマクドナルドのビッグマックがいくらで売られているかを比較し、各国の経済力と通貨の強さを測る指標だ。ビッグマックは世界中でほぼ同じ品質とサイズで提供されているため、単純な比較が可能になる。

私も長年、これに似た観察を旅先で続けてきた。ただし私が比べるのは、ファストフードの値段ではない。月曜の朝の新聞と、通勤する人々の表情だ。

世界の多くの都市では土日が休日で、月曜は休み明けの初日となる。この前提は、ビッグマックと同じようにほぼ世界共通だ。そこで私は旅先で月曜を迎えると、朝の繁華街や駅前に出かけていく。以前はキオスクで英字新聞を買い、今はスマホで現地のニュースサイトを開く。

月曜の朝刊には、週末に溜まった記事がまとめて掲載される。なかでも充実しているのが、ローカル情報と求人広告だ。どんな業界のどんな職種が、どの程度の給料で募集されているか。製造業か、IT産業か、金融か。国内企業か、外資系か。外資の大手が求人を出していれば、その国への進出が本格化していることもわかる。役職と給与を照らし合わせれば、標準的な生活水準も見えてくる。エントリーレベルの募集が多ければ、その産業が成長期にあるのだろう。

こうした情報を眺めながら、前の週に滞在していた隣国の状況と比較する。想像していたのと全然違う、と気づくこともある。ニュース記事よりも、求人欄のほうがその国の現在を雄弁に語っているように思える。

そして新聞から顔を上げ、通りの向こうに目をやる。バス停や駅のホームで、通勤のバスやトラムを待つ人々がいる。月曜の朝である。ここにも世界共通のものがある。「仕事、行きたくないな」という空気だ。

けれども、よく見ると違いも浮かび上がる。フレッシュな表情で朝日を浴びている人。待ち時間に本を読んでいる人。イライラした様子でスマホを操作する人。忙しそうに電話で話す人。そうした人々の数と比率は、国や都市によって驚くほど異なる。

ある街では、ほとんどの人が無表情でじっと前を見つめている。別の街では、笑顔で会話を交わす人が多い。またある街では、誰もがせわしなく動き回っている。同じ月曜の朝でも、その風景は一様ではない。

私はこうした観察から、その国の社会の一端を垣間見ようとしてきた。もちろん、目の前にあるものしか見ていないし、気候や国民性にも左右されるだろう。すべては個人の印象にすぎない。それでも、こんなふうに世界の片隅を覗き見ることは、旅人に許されたささやかな愉しみだと思っている。

知らない街で月曜の朝を迎え、新聞を開き、行き交う人々を眺める。そして世界をちょっとだけ俯瞰する。そんな時間が私は好きなのだ。

最近のビッグマック指数を見ると、日本は世界的にかなり低い位置にある。つまり、値段が安い。訪日旅行者にとっては嬉しいニュースだろう。そうして日本にやって来る彼らが、日本の月曜の朝も見ている可能性はある。駅のホームで、交差点で、私たちがどんな表情をしているかを。

私と同じような旅行者は、きっといる。私たちもまた、静かに観察されているかもしれない。​​​​​​​​​​​​​​​​